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naototabelogまつもとの来来憲
naototabelogまつもとの来来憲

10/25/2022

とにかく店内は異常なまでにごちゃごちゃしている。定量的に表現するならば、エントロピーがかなり増大していた。壁に僅かでも隙間があればポスターだかチラシだかを貼ってやろうという店側の前のめりな姿勢が見てとれる。一見無秩序にポスターやら雑貨やらがレイアウトされた店内に思えるが、一度そこに身を置くと妙な安心感を覚える。 店員さんはこの雑多な空間にマッチするように、元気でやや大雑把なおばちゃんだった。1番人気のトンテキ定食はご飯、豚汁、キャベツがお代わり自由。これは食べ盛りの男子高校生には嬉しいサービスだ。しかし私は少食な男性会社員なのでお代わり自由に一喜一憂したりはしない。おばちゃんにはドヤ顔でお代わり自由をアピールされた気がしたが、盤上を冷静に眺める藤井聡太のような顔で軽く否した。 トンテキの前にご飯と豚汁が配膳された。とりあえず豚汁を一口。なかなか美味い。ゲータレードかの如く豚汁を一気飲みして、すぐさまおばちゃんを探して豚汁のお代わりを要求した。おばちゃんは満足げに空のお椀を下げた。暫くすると豚汁の前に念願のトンテキが到着した。グローブと呼ばれる切り方でトンテキは一枚ながらとても大きい。あっという間に机の大部分をトンテキが占拠してしまった。 そこへ先程お代わりした豚汁がやってきた。一見すると机に豚汁を置くスペースはない。どれだけパスコースを見出す能力に長けているモドリッチでさえも豚汁を置くスペースを見出すのは不可能に思えた。おばちゃんの動向を私は息を呑んで見守った。おばちゃんは盤上にある唯一のパスコースを見出した。それは机の上に置いてあった私のマスクの上だった。他の店ではなかなか出来る判断じゃないだろう。そう言えばおばちゃんのパーマ加減が何処と無くモドリッチに似てなくもない。私は不意にそんな事を思った。